エヴァンゲリオンの物語において、使徒はそれぞれ異なる特性と脅威をもって第3新東京市に襲来します。その中でも第9使徒は、他の使徒とは一線を画す独特の存在感を放っています。
実は、第9使徒は旧作テレビ版と新劇場版で大きく異なる設定を持つ使徒のひとつです。テレビ版では「マトリエル」、新劇場版では全く別の形態と能力を持つ使徒として登場し、ファンの間でも議論が絶えません。
個人的にエヴァンゲリオンの考察を続けてきた中で感じているのは、第9使徒こそが作品のテーマである「人と人との関係性」を最も象徴的に描いた戦闘回だということです。
この記事で学べること
- 旧作テレビ版の第9使徒マトリエルは停電という最悪のタイミングで襲来した
- 新劇場版の第9使徒はエヴァ3号機に寄生し、パイロットごと敵となる衝撃の展開
- 第9使徒戦はシンジの心理的転換点として物語全体の分岐点になっている
- 使徒の名前「マトリエル」はユダヤ・キリスト教の天使に由来する
- 旧作と新劇場版で使徒のナンバリングが異なる理由と対応関係
テレビ版の第9使徒マトリエルとは
テレビ版『新世紀エヴァンゲリオン』における第9使徒はマトリエルです。第11話「静止した闇の中で」に登場するこの使徒は、蜘蛛のような多脚の外見を持ち、巨大な単眼から強力な溶解液を滴らせるという、生物的な不気味さが際立つデザインでした。
マトリエルの最大の脅威は、その戦闘能力そのものではありません。
この使徒が襲来したのは、NERV本部を含む第3新東京市全域が大規模停電に見舞われたまさにそのタイミングでした。エヴァンゲリオンの射出カタパルトも、MAGIシステムも、すべてが機能停止した状態での戦闘を強いられたのです。
使徒の強さは戦闘力だけでは測れない。マトリエルは「最も弱い使徒」とも言われるが、状況次第で最大の脅威になりうることを証明した存在である。
マトリエルの戦闘能力と特徴
マトリエルの攻撃手段は、目から分泌される強力な溶解液。この液体は特殊装甲すら溶かす腐食性を持ち、ジオフロントへの侵入を試みる際に地面を溶かして進行しました。
しかし、使徒としてのATフィールドの強度は比較的弱いとされています。実際、電力が復旧しエヴァンゲリオン3機が揃った後は、ライフル射撃のみで比較的短時間に撃破されました。
つまりマトリエルは、単体の戦闘力よりも「タイミング」で脅威を最大化した使徒。これは庵野秀明監督が描く「状況の恐怖」を象徴するエピソードといえます。
第11話が描いたチームワークの本質
停電によってNERV本部が機能不全に陥る中、シンジ、レイ、アスカの3人は手動でエヴァンゲリオンを射出口まで運ぶという前代未聞の作戦を実行します。
このエピソードで注目すべきは、普段は衝突しがちな3人のパイロットが、言葉少なに協力し合う姿。暗闘の中を手探りで進む描写は、派手な使徒戦とは対照的な静かな緊張感に満ちています。
経験上、エヴァンゲリオンの各話を分析していくと、使徒の強さとドラマの深さは必ずしも比例しないことがわかります。マトリエル戦はその最たる例です。
新劇場版における第9使徒の衝撃

新劇場版『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』では、使徒のナンバリングが旧作から変更されています。新劇場版における第9使徒は、エヴァンゲリオン3号機に寄生した使徒。旧作テレビ版でいう第13使徒バルディエルに相当する存在です。
この変更は単なる番号の振り直しではありません。
新劇場版の第9使徒は、3号機の起動実験中にその機体を完全に乗っ取り、コアがエントリープラグを同化するという恐ろしい特性を持っていました。パイロットが搭乗したまま使徒化するという、人間と使徒の境界を曖昧にする設定は、物語に計り知れない衝撃を与えました。
テレビ版 第9使徒
- 名称:マトリエル
- 外見:蜘蛛型・単眼
- 攻撃:溶解液
- 登場:第11話
- 難易度:比較的低い
新劇場版 第9使徒
- 名称:正式名なし
- 外見:EVA3号機を侵食
- 攻撃:物理戦闘・浸食
- 登場:ヱヴァ破
- 難易度:極めて高い
エヴァ3号機寄生の経緯
新劇場版での第9使徒は、アメリカから日本へ輸送されるエヴァンゲリオン3号機に、輸送途中で寄生したとされています。起動実験の段階では外見上の異常は確認されず、起動テスト中に突如として使徒としての本性を現しました。
コアがエントリープラグそのものを取り込む。これは旧作のバルディエルでも描かれた設定ですが、新劇場版ではより明確に「パイロットの生命が危険にさらされている」という状況が強調されています。
3号機のパイロットが搭乗したまま使徒化したという事実は、この後のシンジの選択に直結する重大な伏線となりました。
ダミーシステムによる殲滅とシンジの葛藤
第9使徒との戦闘で最も衝撃的だったのは、戦闘そのものの描写です。
シンジは初号機で出撃しますが、3号機の中にパイロットがいることを知り、攻撃を拒否します。しかしゲンドウの命令によりダミーシステムが起動され、初号機はシンジの意思とは無関係に3号機を徹底的に破壊しました。
この戦闘は、シンジとゲンドウの関係を決定的に破壊する転換点となりました。父への信頼が完全に崩壊する瞬間。第9使徒戦は、使徒との戦いであると同時に、親子の断絶を描いた人間ドラマでもあったのです。
使徒の名前に隠された意味

テレビ版の第9使徒「マトリエル」という名前は、ユダヤ教・キリスト教の伝承に登場する天使の名前に由来しています。エヴァンゲリオンに登場する使徒はすべて、宗教的な天使の名を冠しているのが特徴です。
マトリエルは「神の恵みの雨」を意味する天使とされ、雨や水に関連する存在です。使徒マトリエルが目から溶解液を「滴らせる」という攻撃方法は、この語源と無関係ではないでしょう。
庵野監督が使徒の名前に宗教的モチーフを取り入れた理由については、さまざまな考察がなされています。個人的な見解では、これは単なる雰囲気づくりではなく、「人類の敵」が「天使」の名を持つという逆説的な構造そのものがエヴァンゲリオンのテーマを反映している。
旧作と新劇場版のナンバリング対応表

エヴァンゲリオンファンの間でよく混乱が生じるのが、使徒のナンバリングの違いです。新劇場版では使徒の総数や登場順が変更されており、使徒の一覧を確認すると、対応関係が複雑になっていることがわかります。
第9使徒の対応関係
新劇場版ではアダムとリリスが第1・第2使徒として明確にカウントされ、さらに一部の使徒が統合・省略されたことで、同じ「第9」でもまったく異なる使徒を指すことになりました。この点はエヴァンゲリオンの使徒全体を理解するうえで非常に重要です。
第9使徒が物語全体に与えた影響
テレビ版と新劇場版、どちらの第9使徒も、物語の転換点に位置しています。
テレビ版のマトリエル戦では、パイロット3人の協力関係が描かれ、チームとしての結束が生まれた数少ないエピソードでした。一方、新劇場版の第9使徒戦は、シンジがNERVに対する信頼を完全に失うきっかけ。
この対比は、旧作と新劇場版が同じ素材を使いながらも、まったく異なるメッセージを伝えようとしていることを示しています。
人類補完計画との関連性
新劇場版の第9使徒戦で起きた出来事は、その後の人類補完計画へと続く一連の流れの起点ともいえます。シンジが父ゲンドウへの信頼を失い、NERVの組織としての冷酷さを目の当たりにしたことで、彼の行動原理は大きく変化しました。
使徒を倒すことの意味、パイロットとしての責任、そして人間関係の脆さ。第9使徒戦は、これらすべてを凝縮したエピソードだったのです。
第9使徒に関するよくある質問
第9使徒はテレビ版と新劇場版で同じ使徒ですか
いいえ、まったく異なる使徒です。テレビ版の第9使徒はマトリエルという蜘蛛型の使徒で、新劇場版の第9使徒はエヴァ3号機に寄生した使徒です。新劇場版ではナンバリングが変更されたため、同じ番号でも別の存在を指します。旧作のマトリエルに相当する使徒は、新劇場版では登場しないか、別の番号で扱われています。
新劇場版の第9使徒のパイロットは誰でしたか
新劇場版『破』では、エヴァ3号機のテストパイロットとしてアスカが搭乗していました。これはテレビ版でトウジが搭乗していた設定から変更された点で、ファンの間でも大きな議論を呼びました。パイロットの変更により、シンジとの関係性や物語の展開にも異なる感情的インパクトが生まれています。
マトリエルは最弱の使徒と言われていますが本当ですか
戦闘能力だけを見れば、マトリエルは確かに他の使徒と比べて弱い部類に入ります。ATフィールドの強度が低く、エヴァ3機のライフル射撃で撃破されました。しかし、大規模停電という状況がなければ脅威にならなかったかもしれない反面、停電下では人類を滅ぼしかねない存在でした。「強さ」は状況によって変わるという教訓を示した使徒。
第9使徒の名前マトリエルにはどんな意味がありますか
マトリエルはユダヤ教の伝承に登場する天使の名前で、「神の恵みの雨」に関連する天使とされています。エヴァンゲリオンの使徒はすべて天使の名前が付けられており、マトリエルの場合は「雨」「水」との関連が、溶解液を滴らせるという攻撃方法と結びついています。ただし、新劇場版の第9使徒には個別の名前は公式に与えられていません。
第9使徒戦を理解するために見るべきエピソードはどれですか
テレビ版であれば第11話「静止した闇の中で」が該当します。新劇場版であれば『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』の後半パートです。より深く理解するためには、テレビ版の第11話の前後、特に第10話と第12話を通して見ることで、パイロット3人の関係性の変化がよくわかります。新劇場版の場合は、その後の『Q』まで続けて視聴することで、第9使徒戦の影響の大きさを実感できるでしょう。
